山形県 庄内小国川 春風に誘われて...。其之伍
写真と文 大石 喜久徳


【遅い春...】
もうすぐ、5月の中旬だというのに、全てが一ヶ月ほど遅れている。
渓流もそうだ。気分的には、4月の釣行とさほど変わらない...。
ようやく、休みが取れたと思えば、寒すぎてやる気が失せる。
いざ、渓流に立って水温を計ると解禁当初と変わらない...。
なんか変だ。
なんか違う...。
今回もそうだ。
季節からすれば、もうじき晩春なんだ...。
新緑が眩しい筈なのに、なぜか寒々とした風景が車窓から見える。
雪シロは、まだ治まっていないし、田んぼからのしろかき水が本流の水色を変えている。
フィールドの選択、間違えたかな...。
素直な感想である。
ここは、山形庄内。
桜がまだ咲いている...。


姫神3,6gにヒットしたやまめ。プロトのフックをガッチリくわえている。
こちらは、風神6gにヒットしたやまめ。金魚でやまめを釣る。そんな遊び心があっても良いんじゃないかな...。
【今回の旅の目的...】
今回の旅の目的は、来月早々にでも発表したいフックの最終テスト。
SEASONとシーズンスペシャル同様、震災が起きた一昨年、発売を予定していたフックである。
一昨年の東日本大震災で、弊社の石巻の生産拠点が津波と火災で壊滅的な打撃を受けた。
損害額は、ブランクと半製品、製品。そして付随するもろもろの資財...。
正直、これで終わり...。
全て、諦めた。
だが、時間と共に、音信普通の内職さん達から連絡が入りはじめた。
幸いにも、全員が日和山の高台に避難して無事だった。
しかし、家族や旦那さんを亡くした人もいる。
やりがいが無ければ、生きてく意味が無い...。
その一言で、完全撤退を予定していたこの仕事の後押しとなった次第である。
多分、実際に被災してない人達には、理解しがたい考えだと思うが、これも義理人情。
絆。そのものである...。
今は、すでに風化している。
何もかも...。
あの、惨事のことなんか...。
まあ、所詮、そんなものだな...。
しかし、災害なんて明日は我が身なんだよな...。
奇麗事だけじゃ、飯は食べられないからね。


【浦島太郎】
正直、浦島太郎である。
現役を引退してから、フックの販売は問屋さん任せ。
業界の話も全て遮断していた。
戻るつもりは微塵も無かったし、ことあるごとに辞める気満々だった。
本業が順調だから...。
理由はそれだけ。
また、昔のように変なプレッシャーも必要ない。
釣って当たり前。そう思われていた現役時代。
これが仕事だから。
そう思っていたあの頃...。
10年間、よくやったと自分でも感心する。
今回、庄内小国川を遡行しながら、昔の想いが走馬灯のように駆け巡った...。
自分が表に出ることで迷惑する人もいるだろう。
そう、いつ裏話を暴露されるか...。
怯えてるんだろうな...。


【愚痴はよしましょう】
今回、事務所を出るまで何処に行くか迷った。
北へ行くか、南に行くか、はたまた日本海側に抜けるか...。
もちろん、庄内四川に的を絞った訳でも無い。
風の吹くまま、気の向くまま...。
北に向かってたら、津軽海峡を渡って北海道に行ってたかも知れない...。
震災前なら、好き勝手に10日くらい休んで行っていたから...。
なんか、そう。
今回の旅は、いろいろ考えることが出来る。久しぶりに有意義な旅だった。
ありがとう。
自分の周りの全ての人達。
渓流を遡行し、ワンキャスト~リトリーブの間に複雑な想いを川の流れに捨てた。
小気味良くロッドがしなる。
スプーンのフックをガッチリ咥え、急流に逃げようとする幅広やまめ。
朝方立寄った、日釣券販売所のお姉さんの話では「多くの釣り人が連休中に入ったから釣れないよ」なんて薄情な情報を教えてくれた...。
でも、大丈夫!
渓魚が居れば釣れるから!
なせば成る。
多分...。
俺の旅、いつまで続ければ良いのかな...。

タックル
ロッド:オリジナル 4ft
リール:カーディナル33
ライン:6Lb
ルアー:TROUT JAPAN
スプーン
風神 6g
姫神 3,6g
フック:プロト #2~3
シーズンSP-5~6